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山口地方裁判所 昭和46年(わ)189号 判決

本店所在地

山口県防府市戎町一丁目二番一八号

商号

株式会社戎屋

代表者代表取締役

橋口賢司

本籍

同県同市八王子二丁目一三一五番地の一

住居

同県同市八王子二丁目一番一五号

会社役員

橋口賢司

大正一二年七月二二日生

右被告会社株式会社戎屋、被告人橋口賢司に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官島田清出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告会社株式会社戎屋を罰金三〇〇万円に、被告人橋口賢司を懲役四月に各処する。

被告人橋口賢司に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告会社株式会社戎屋および被告人橋口賢司の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社戎屋は、防府市戎町一丁目二番一八号に本店を置き、パチンコ遊技場経営等の事業を営むもの、被告人橋口賢司は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、同被告人は、同会社専務取締役中村花枝と共謀のうえ、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一、昭和四二年九月一日より昭和四三年八月三一日までの事業年度において、所得金額が二〇五三万七二六三円で、これに対する法人税額が六九六万七〇〇円であるのにかかわらず、売上金の一部を除外し、架空名義の簿外預金または被告人橋口個人の土地を取得する等の不正手段によりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四三年一〇月三一日同市緑町一丁目二番一二号所在防府税務署において、同税絡署長に対し所得金額が六二九万八二九円で、これに対する法人税額は一九七万六三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額四九八万四四〇〇円を免れ、

第二、昭和四三年九月一日より昭和四四年八月三一日までの事業年度において、所得金額が二六六四万一三四三円で、これに対する法人税額が九〇八万二八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正手段によりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四四年一〇月二九日前記防府税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八八八万九九三六円で、これに対する法人税額は二八六万八九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額六二一万三九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき、次の証拠を総合して認める。

一、被告人橋口の当公判廷(第一〇回公判)における供述

一、第七回公判調書中、証人中村花枝および被告人橋口の各供述部分

一、被告人の検察官に対する各供述調書および大蔵事務官に対する各質問顛末書

一、中村花枝、鶴原延夫、浅川淳生、窪勝彦、蓮池清二、吉岡旭、植野百合夫および吉武馨の検察官に対する各供述調書

一、中村花枝、橋口昌子、岩本泰薫、北村昌子、山本唯春、村田琴弥、田中武雄、田中精一、鶴原延夫、浅川淳生、窪勝彦、吉田允洋、矢田友希、岩原義雄、佐田秀隆、渡辺準二、吉岡旭、児玉光夫、町田隆範、亀田久一、植野百合夫、吉武馨、楠田武、東義和、田中健資、吉見博司、西村健治および樋ケ徹の大蔵事務官に対する各質問顛末書

一、応武郁夫、叶昭三、柴田元隆、大田勲、木島正、桝田享史および遠藤登芽夫作成の各現金有価証券等現在高検査てん末書

一、大田正作成の調査事績報告書

一、大貝健、吉岡旭、吉武馨、国光健、植野百合夫ほか一名、藤井通、揚井兌子、井上崇彦、兼平武雄、植野百合夫、中村花枝および橋口昌子作成の各上申書

一、窪勝彦、吉岡旭、岩原義雄、矢田友希、浅川淳生、内田周、大束卓弥、蓮池清士、守岡喬、大沢良治、岡本健治、小出孝、小西忠昭、吉武馨、松木通治、本多文夫、福田武夫、藤井勝好、橋口正也、鶴原延夫、岡田重利、梶山礼三、問田芳雄および有吉正作成の各答申書

一、成蹊大学庶務課長、防府県税事務所長、防府市役所税務課長、東邦生命広島支社長、日本生命徳山支社長、住友生命代理店収納課および防府税務署長作成の各回答書

一、矢田友希、田部昌、相沢誠、津久間智、小出孝、野村晃三、竹林弥寿友、金田宏、亀田久一、国光健、吉田武重、村井一夫、大成昌作、松原薫、兼平武雄、中川岩男、新町章治、藤井通、斎藤寛、山口銀行福岡支店、福田一男、鈴木昭、梶山芳四郎および川口喜昭作成の各証明書

一、橋口マツほか五名作成の遺産分割協議書の謄本

一、領置してある左記の証拠物(昭和四七年押第一一号。括弧内の数字は、同号の符号を示す。)

1  法人税決議書綴一綴(1)

2  被告会社の総勘定元帳四冊(2ないし5)

3  手控メモ綴一冊(6)、便箋七枚のメモ(12)、架空預金メモ一枚(19)、三枚のメモ(43)、メモ一枚(定期預金の手控45)、メモ一枚(52)

4  印鑑票一八枚(7)、同四六枚(8)、定期預金印鑑票六枚(16)

5  印鑑八ケ(9)、同八八ケ(13)、同六ケ(20)、同一〇二ケ(27)、一ケ(28)、一ケ(29)、九ケ(44)

6  貸出関係書類二綴(10、11)

7  定期預金元帳(七枚)及び印鑑票(四枚)一綴(14)

8  定期預金元帳一六枚(15)、同五枚(22)、同八枚(23)、同一枚(31)、同一枚(32)

9  貸付金元帳一枚(17)

10  管理カード三枚(18)

11  相互掛金契約元帳二枚(21)

12  偽名定期預金手控(表紙共三一枚)一冊(24)

13  定期預金元帳(三二枚)及び記入帳(五七枚)一綴(25)

14  定期預金名寄カード八三枚(26)、名寄カード四枚(33)、定期預金名寄カード一七枚(35)、同四枚(40)

15  定期預金利息計算書二枚(30)

16  定期預金証書二枚(34)

17  証書式自動継続定期預金元帳九枚(36)、同七枚(42)、同一枚及び定期預金記入帳二枚(39)

18  定期預金記入帳四枚(37)、同一八枚(38)、同一二枚(41)

19  取引先カード一枚(46)、同一枚(57)

20  戎不動産有限会社の総勘定元帳四冊(47ないし50)

21  戎不動産登記書類綴一冊(51)

22  登記済権利書一通(53)

23  借人・貸付元帳一冊(54)

24  契約書一枚(55)

25  登記書類関係一冊(56)

26  注文書(写)三枚(58)

27  入金伝票八枚(59)

(弁護人らの主張に対する判断)

被告人橋口および弁護人は、被告会社の、(一)昭和四二年九月一日より昭和四三年八月三一日までの事業年度の所得金額は二〇五三万七二六二円であること、および(二)昭和四三年九月一日から昭和四四年八月三一日までの事業年度の所得金額が二六六四万一三四三円であることをいずれも否認し、その理由として、右各事業年度の期首持込資産中、簿外預金約七、〇〇〇万円は、被告人橋口の先代の橋口佐一が種々雑多な所得から残した共同相続財産であって、被告会社には引継がれておらず、また、その必要もなく、被告会社のために運用されたことは全くなく、その必要もなかったので、被告人橋口が適当な時期に分割するつもりで管理していたものである。従って、右(一)の事業年度の期首持込資産として七七六四万九五二円、(二)の事業年度の期首持込資産として七三〇三万八四二五円を各計上したのは誤りであり、前記の各所得金額より、(一)の年度については少くとも社長勘定分七七四二万三五五二円、(二)の年度については社長勘定分七三〇三万八四二五円に対する各期定期預金利息分四二五万八二九七円と四〇一万七一一三円をそれぞれ控除すべきであって、この各利息分については脱税の犯意がなかった旨主張するので、以下これにつき判断する。(以下、前記各年度の社長勘定中の簿外預金相当分を、本件(一)、(二)の簿外額金という。)

一、本件(一)、(二)の簿外預金の性質とその管理、運用の状況

1  前掲各証拠によると、被告人橋口の先代橋口佐一が、戎会館なる商号でパチンコ店を経営し、税金を安くする目的で、その売上所得の一部を除外して簿外預金としていたところ、同人が昭和四〇年七月死亡したため、長男である右被告人が遺産分割の協議により、右パチンコ営業の財産一切を承継収得したこと、その際の昭和四一年ころ、右佐一の簿外預金のうち八〇〇万円を他の相続人に分配したこと、昭和四二年六月末、当時右被告人が代表取締役で、レストラン、食堂営業を目的としていた被告会社が休業状態にあったので、右戎会館の営業一切を被告会社に承継させ、同年七月一日より右パチンコ営業を法人組織にしたことがそれぞれ認められる。右のとおり、右被告人は、先代佐一が蓄積した戎会館の簿外預金を全部単独で承継したものであり、右簿外預金は、後記の如き管理、運用の実情に照らしても、分割未了の共同相続財産とはいうこができない。

2  次に、右パチンコ営業による簿外預金の管理、運用の状況について検討するに、前掲証拠によると、先代佐一当時から、同人の指示で戎会館の従業員であった中村花枝が売上除外して銀行等に架空ないし無記名で預金し、被告人橋口が右戎会館を引継ぎ、さらに法人に組織替えして被告会社となった後も、同被告人の指示もしくは承認のもとに、被告会社の事実上の責任者で専務取締役の職にある右中村花枝が右方法を継続して簿外預金を重ねてきたものであって、法人に組織替えすることにより、それまでに生じた個人財産がその後に生ずる会社財産と混同を生ずるおそれがあるのに、右被告人および中村花枝はこれを区別して管理する意図はみられず、却って、個人財産である預金を解約し、これに会社の売上除外を加えて預金する等、特に本件で問題となっている利息については、定期預金が自動継続の時においても、利息が一応中村に渡され、中村においてこれに売上除外金を加えて銀行預金する等、個人財産である簿外預金と会社財産を一体として管理しており、その把握の程度も、簿外預金の発覚をおそれ、手許にはその証跡を残らないようにして、もっぱら預金先の銀行員のメモに頼る等、漠然としたもので、その管理、運用において連続し、此彼識別するには困難なものがあり、また、その使途においても、裏預金として使用方法に制約があったものの、被告人橋口が代表取締役である防府通運株式会社の土地購入代金(約二〇〇万円)、同会社の代表として全国大会への出張費(毎年一〇ないし一五万円)、同会社などの社用に使用する乗用自動車二台購入代金(合計約二二六万円)のほか、被告会社専務の右中村に対する家屋新築費と造園費(合計三三〇万円)、右被告人宅の土地、建物購入費(三〇〇万円)などに使用しており、これらの出所については、簿外預金のうち、個人財産にあたる部分のみならず、被告会社になってから生じた部分が含まれるものがあり、支出の範囲は、個人的な支出もあるが、広い意味で被告会社の企業関連経費と目されるものがあり、特に右他の企業は被告人橋口が経営する個人企業の色彩が強く、被告会社自身も同被告人の個人企業に近いものであることが認められ、これら簿外預金の管理、運用等の状況によると、簿外預金のうち、被告人橋口の個人財産にあたる部分は、被告会社の運用に供された資産、即ち、持込資産とみるを妨げない。もっとも、右個人財産については引継ぎという明確な行為もないし、被告会社が十分な営業収人をあげていたという意味では右引継ぎの必要性も乏しいといいうるが、簿外預金の如きは、その帰属を不明確にし、課税対象から免れるのが目的であるから、引継ぎという明確な行為をしないのが普通であろうし、また、税法上は、簿外預金のあり方が重要なものであり、右引継ぎの必要性に重きをおくことはできない。

二、本件(一)、(二)の簿外預金利息の不計上と脱税の犯意

以上により、本件(一)、(二)の簿外預金は、被告人橋口らの共同相続の対象とみることはできず、同被告人が単独で相続した個人資産として、戎会館のその他の総ての資産とともに被告会社の運用に供された資産と解するのが相当であり、従って、右各簿外預金に対する定期預金利息も被告会社に帰属するとみられる。しかるところ、被告人橋口は右各利息分について、その脱税の犯意を否認するけれども、もともと本件(一)、(二)の簿外預金である元本は脱税の目的で売上金から除外して預金されたものであり、銀行等の定期預金は当然に所定の利息が発生するものであるから、確定申告に際し、右各利息分を計上しなかったことにつき、同被告人に前記犯意がなかったということができない。

よって、弁護人らの前記主張は理由がなく、採用できない。

(法令の適用)

被告人橋口賢司の判示各所為は、刑法六〇条、法人税法一五九条一項に各該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に処し、同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、被告会社については、その代表者である被告人橋口賢司が被告会社の業務に関して判示各違反行為をしたものであるから、判示各所為につき法人税法一六四条一項、一五九条一項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪に定めた罰金を合算し、その金額の範囲内において、被告会社を罰金三〇〇万円に処し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用して、被告会社及び被告人橋口賢司に連帯して負担させることとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野曽原秀尚 裁判官 山本博文 裁判官 國盛隆)

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